リスニングルームで音が消える!?定在波の正体とは。

みなさんが一般的な小型スピーカーを置く場所はどんなところでしょうか? 日本の住宅事情からいえば、6畳間や8畳間、または十数畳のリビングルームなどが多いのではないのでしょうか。 今回は、スピーカーを置いた場所と耳に聞こえてくる音についてお話をしたいと思います。

みなさんご存じのやまびこ。「やっほー」と山に向かって声をかけると「やっほー」と声が帰ってきます。そう、音は何かにぶつかると反射するのです。 他には、大きな建物の中で手を叩くと壁に音がぶつかってダブって聴こえたりします。 これはみなさんが当たり前のように経験し体験している内容で別段不思議なことでもありません。

実はこれと同じことが、スピーカーを設置している部屋の中でも起こります。
やまびこの例で例えると、スピーカーが人で、部屋の壁が山になります。
「でも、そんなこと感じたことも気になったこともないよ」という方もいるかもしれません。 確かにほとんどの人にとっては、重要なことでもないですし気にかけていないと実際に感じることも無い内容です。 しかし、音楽や音にたずさわる人にとってこれは非常に重要な問題なのです。

部屋の大きさによって音がガラッと変わってしまう定在波とは

さて、部屋の中でスピーカーから音を鳴らすと何が起こるでしょう。
スピーカーから出た音は、やまびこと同様に壁で音が反射します。そして一度反射した音は更に反対側の壁で反射します。
この音の反射は理論上永遠に繰り返され音の定在波を生み出します。定在波とは同じところで振動して変化の無い波のことを一般的にいいます。

定在波はリコーダーをイメージしたら分かり易いかもしれません。リコーダーに息を吹きかけるとリコーダー内部で定在波が生まれて音がでます。この例だと息がスピーカーで、リコーダーが部屋でリコーダーの長さが部屋の大きさになります。
その他の例だと、縄跳びも分かり易いかもしれません。縄跳びを伸ばして左右を2人で持って1人が揺らすと縄跳びが波を打ちます。揺らす人がスピーカーで、縄跳びが部屋、縄跳びの長さが部屋の大きさです。

定在波が発生すると何が問題なのか

上記の縄跳びの例で、揺れた縄跳びをよく見ると、大きく振れる部分と全く振れていない部分があるのがわかります。
これは定在波の特徴で、一番大きく振れるところを「腹」まったく振れないところを「節」といいます。

音の定在波にある「腹」と「節」は具体的にいうと

  • 「腹」は「音がまったくしない場所」
  • 「節」は「音が一番大きくなる場所」

になります。これは部屋の中のどこで音を聴くかで、音の大きさが変わることを意味しています。
せっかく買った高価なスピーカーも人が聴く場所で音が変わってしまうなんて、これはちょっと問題です。

よく、お店のリスニングルームで聴いたときはとっても良い音だったのに、家で聴いてみたら「あれっ?」とガッカリするなんてことが良くあります。 これは、お店のリスニングルームと家の部屋の音響特性が全く異なるために起こります。 お店のリスニングルームは定在波をコントロールするようにセッティングされていますので音が良くて当然といえば当然です。

【コラム】

音の場合、部屋の壁は動かない(固定端になる)ので壁が必ず定在波の節になります。
「節=振動しない部分」というイメージがあるので、音が一番小さくなるかというとそうではなく、節の部分で音が一番大きくなります。これは節の部分は変位は一番小さいのですが変化量(変位を微分した値)は一番大きくなるためです。

定在波の説明1

定在波の基本波。部屋の中心で音が消える。

定在波の説明2

定在波の基本波の2倍の周波数。部屋の2ヶ所で音が消える。

定在波の説明3

定在波の基本波の3倍の周波数。部屋の3ヶ所で音が消えるが、無音部分の間隔が狭いため聴感上では段々気にならなくなってくる。

部屋(リスニングルーム)で発生する定在波を計算で求めてみましょう

部屋の中で大きさが変わってしまう音とは具体的にどんな音でしょうか。
次に、部屋の中で発生する定在波はどんな音に影響するかを説明します。

まず、部屋の中で発生する定在波の周波数(音程)を計算してみましょう。
例としてスピーカーを6畳間に置いたと仮定します。

床から天井の高さ:2.4m
部屋の短辺:2.7m
部屋の長辺:3.6m
音速:340m/秒
とした場合、

床と天井の間に出来る定在波は

  • (340m/s÷(2.4m×2))×1 = 71Hz (基本波)
  • (340m/s÷(2.4m×2))×2 = 142Hz (基本波の2倍)
  • (340m/s÷(2.4m×2))×3 = 213Hz (基本波の3倍)

・・・と基本波の整数倍の定在波が永遠に続きます。

同様に部屋短辺の定在波は
63Hz, 126Hz, 188Hz・・・

部屋の長辺の定在波は
47Hz, 94Hz, 142Hz・・・
となります。

基本波の3倍以上の周波数は部屋の中に「腹」と「節」がそれなりに沢山できるので聴感上あまり問題となりませんが、基本波とその2倍の周波数は部屋の中央と部屋の寸法の1/3と2/3の場所にピンポイントで「腹」が発生するため、素人の耳でも明らかに違った音として聴き分けることができてしまいます。

具体的には部屋の中央で音を聴くと、47Hzと63Hzと71Hz(各辺の基本波)の音が全く聴こえなくなるのです。

スピーカーのカタログにある周波数特性は通常は無響室の中で測定されます。
無響室とはまったく音が反射しない部屋のことで定在波などは当然発生しません。
私も以前仕事で無響室に入ったことがありますが、響きの無い部屋というものは非常に気持ちが悪く慣れないと気分が悪くなります。

無響室に入ってみると如何にリスニングルームが重要かが良くわかります。 スピーカーから出た音の半分は聴く部屋の環境(音響性能)で決まる気すらします。 このためオーディオを趣味としている方々は、部屋にカーペットを敷いて床からの音の反射を防いだり、壁側に音を乱反射させるためのギザギザの板や穴の空いたパネルを立て掛けたりするわけです。 これらはすべて部屋の定在波をコントロールするために行っています。

といっても一般の方がお金をかけてリスニングルームを整備することは難しいと思います。
ここで簡単にできる音質を良くするスピーカーの設置方法をいくつかご紹介します。

設置する部屋について

定在波のことを考慮すると部屋の「床と天井の距離」「部屋の短辺」「部屋の長辺」が異なる長さのほうがよいと思います。こうすることで定在波の周波数を分散することができます。 たとえば一般的な8畳間ですと「部屋の短辺」と「部屋の長辺」が同じ長さになってしまいますので、かなり強力な定在波がピンポイントの周波数で発生してしまいます。リスニングルームとしては6畳間のほうが良いようです。

また、家具などが壁際に沢山置いてある部屋のほうが、音が乱反射するため、定在波の発生を抑制することができます。これは反射板を家具で代用するイメージになります。

スピーカーを設置する場所

スピーカーは耳の高さに設置するのがもっとも好ましいです。これは音の高さによって指向性(音の強度が方向により異なる性質)が異なるため、スピーカーの位置と耳の位置がことなると、特に指向性の強い高音側が聞こえにくくなり、一般的にこもったような音になります。

小型スピーカーの場合、ほとんどの方は部屋の壁際に設置するでしょう。
実は、スピーカーをどの場所に設置したかで低音の出方が異なります。

具体的には、部屋の壁から離れた中央付近に設置した場合は低音がもっとも出にくくなります。(正確には虚像音の影響を受けないので本来のスピーカーの音が出る) 逆に壁の四隅に設置した場合は低音がもっとも出やすくなります。その差は音圧にして8倍程度の差となります。 この特性を利用して、もしも低音が出過ぎるのであれば、なるべく壁や床からスピーカーを離す。 低音が不足するのであれば、壁にスピーカーを近づけて配置する。(部屋の四隅が低音が最大になる) これを知っていると、ある程度、低音の音質をコントロールすることができます。

個人的にはグラフィックイコライザーで低音のコントロールをするより自然で良い音になると思います。

スピーカーの設置場所1

「A」: スピーカースタンドを使用して床と壁から遠ざけてスピーカーを設置

スピーカーの設置2

「B」: スピーカーを机の上に置き壁から遠ざけて設置

スピーカーの設置3

「C」: スピーカーを机の上に置き壁に近づけて設置

スピーカーの設置4

「D」: スピーカーを机の上に部屋の隅に設置

上記の図だと、「A→B→C→D」の順に低音が大きくなります。(Aの低音が一番弱く、Dの低音が一番強い)

といっても音のために設置場所を選ぶことが出来ない場合がほどんどでしょうし、音楽のソースによっても強調される低音の周波数が異なりますのでLight Years 01ではASCT(バスブースト)の聴き具合を3段階で調整できるようになっています。設置する部屋や聴く曲に合わせてASCTの調整を行って頂ければより良い音質で音楽を楽しむことができます。

以上、リスニングルームとスピーカーとの関係を説明させていただきました。
上記のことを踏まえて、スピーカーを置いている場所を少し変えるだけで、皆様のオーディオライフが格段に良くなる、という可能性も充分にあります。音楽をもっと楽しみたい、良質な音を聴きたいという方は、ぜひ試してみて下さい。